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「クソがぁッ!!」
赤いローブの青年、カスパーが壁を殴りつける。 想像以上に鈍い音がダンジョン中に広がる。 ダンジョンに潜って、もうすでに何日も過ぎている。 一刻の猶予もないというのに、私達は先へ進むことが出来ない。 「また同じ場所じゃねーか!どーなってんだ!!」 「うるさいぞ、カスパー。もう少し冷静になれ!」 「あァ!?殴られたいのか、バルタザール!」 緑のローブの老人、バルタザールの声にも、イラつきが現れ始めている。 「二人とも、落ち着きなさい。」 青いローブの男、メルキオールが二人の間に割ってはいる。 冷静が常の彼も、さすがに焦っているようだ。 「あなたたちがそんな状態でどうするのです!セマは、もっとつらいのですよ?」 「えっ?」 突然名前を出されて、驚いて顔を上げる。 「・・・・・・またですか。セマ、少し休憩しますか?」 「い、いえ。すみません。大丈夫です。」 このやり取りも、もう何回目になるだろう。 「そうですか。・・・・・・無理はしないでくださいね。」 「はい。ありがとうございます。」 会話の傍らにも、メルキオールは襲い掛かってきたバグベアーを確実にしとめる。 正直を言えば、大丈夫じゃなかった。 でもそれは、オリムを心配してのこと。 だから、もっと急がなくては。 そんな私の想いを裏切って、私達は、また同じ場所に出てきてしまった。 # by cursedbird2 | 2007-05-14 03:56
こんばんは。君は、冒険者だね?
わかりきった質問はしなくていいだろう? ここがどんな場所か、歩いてきた君が一番知っているはずだから。 そうそう、ちょっと、買い物をしていかないかい。 何、こんなところに住んでいて何より困るのが資金でね。 上で稼ごうにも、ちょっと目立ちたくない事情があるんだ。 ・・・ありがとう。助かるよ。 ん?途中で、私を探している一団を見たって? まだ諦めてないのか、彼らは。 ちょっとした知り合いでね。私を捕らえるために探しているんだよ。 ちょっとした細工がしてあるから、絶対にここまではこれないだろうけどね。 ははっ、大丈夫だよ。 影響を受けるのはあの四人だけ。 現に、君もここに居るじゃないか。 おっと、無駄だよ。 教えたからって、彼らはここまでこられない。 そして私は、君に負けるほど弱くもない。 そもそも、すぐに逃げるしね。 大体、君だって困るだろう? そうそう、格安で譲ってあげるから。 ここはギブアンドテイクでいこうじゃないか。 ・・・大体。彼らに近づくのはオススメしないよ。 彼らは、人間がモンスターに見えているはずだからね。 ふふ、言っただろう。細工をしてるって。 なんなら、かけてあげようか?同じ魔法を。 社会復帰できる保証はないけどね。 # by cursedbird2 | 2006-10-20 05:25
それぞれ想いを胸に、オリム捜索の準備を整えに自室に戻る。
出立はほんの半刻後。 それほど事態は急を要するということだ。 セマも、準備をするために自室へ戻っていた。 自分のノートに封をかける。 研究を盗まれたくない、という思いも少なからずはあったが 本当に見られたくないことは、もっと別のことだった。 もし他人に見られたら、きっと赤面程度では済まない。 彼女はそのノートを引き出しに仕舞い込み、引き出しにも念入りに封をかける。 彼女は、自室の机に置いていた指輪をそっと手に取る。 彼の、オリムの残していった指輪。 やや太い、無骨な感じのする指輪。 表面をそっと撫で、自分の指に通す。 なぜ、オリム様は塔を脱走したのだろう。 おまけに、危険が迫っているなんて・・・。 いったい、いったい何が・・・。 セマは小さく頭を振った。 今は、考えている場合じゃない。 彼女は外出用のローブに着替え (女と知られぬよう黒い不恰好なローブを選んでいる) 自分の杖を手に取った。 要は、彼を助けることが出来れば良い。 彼女は自分にそう言い聞かせ、塔の入り口へと走って行った。 # by cursedbird2 | 2006-10-02 00:51
「最早一刻の猶予も無い。早くオリムを探し出さねば奴は死ぬことになるだろう」
象牙の塔。ウィザードたちの研究機関。 その一室に、五人の人間が集まっていた。 「ハーディン様、どういうことですか?」 内の一人。唯一の女性がまず質問をする。 「それについては詳しく教えることはできない・・・。すまないな。」 「はっ!秘密秘密秘密!上サマは調子がいいな!」 すまなそうに返すハーディンに、一人の若者が突っかかる。 「落ち着けカスパー。ハーディン様も好きで秘密にしているわけではない。」 「あア?バルタザール、貴様早くもボケたか?オリムが危険だって言われて、その理由が秘密だって言われんだぞ?納得いくのかよ!?」 「カスパー、落ち着きなさい。バルタザールも、オリムを心配していないわけではありませんよ。ただ、今、その『秘密』で時間を潰していてよろしいのですか?」 「ぐ・・・。」 一同がおとなしくなったところで、ハーディンは改めて彼らの顔を見渡す。 オリムの後輩に当たる者たち。 最も年若く、血気盛んなカスパー。 最年長で、落ち着いてはいるが頑固なバルタザール。 冷静で、ぶつかりがちな二人をなだめるメルキオール。 そして。 オリムと恋仲にある、セマ。 「わけを話せないことは謝る。ただ、メルキオールの言うとおり、今は時間がない。だから、頼む。この通りだ。わけを聞かず、オリム捜索の任について欲しい。」 突然、ハーディンが跪き、彼らに対して頭を下げる。 「そんな!頭を上げてください!」「・・・っ」「はっ、ハーディン様!?」「そこまで・・・」 あまりに突然なことに、彼らは一様にあわてる。 無理も無い。ハーディンは彼らにとって、大先生以上な存在である。 「私にわかる限り、オリムはメインランドの洞窟に潜んでいる。行って貰えるか?」 「わかりました。」「しゃーねぇな!」「確かに。」「了解いたしました。」 四人が出て行った後、ハーディンもひっそりと私室を抜けた。 # by cursedbird2 | 2006-09-18 10:48
かつて、魔道の天才だった男が居た。
彼は、研究に自らの人生を注ぎ すべての知識を吸収していった。 知識はやがて力となり 彼は、強大になってゆく自らの力に惹かれていった。 そこから、彼は狂っていった。 自分は人間を超えたと思い。 かつて自分が属していた種族、人間を見下すようになった。 人間は、自分の研究素材。 使い捨ての道具。 その程度としか見なかった。 新たな研究素材。 それは、自分の体のつくりに酷似した 実に便利な素材。 それによって、彼の力はさらに強大になっていった。 やがて彼は 自分が人間を超えた存在であることの証とし 自らの肉体を変貌させた。 彼にとっては容易い事だった。 何年も、彼の非道は続いた。 ウィンダウッドの民は恐怖に脅えた毎日を過ごす。 そしてあるとき。 何人かが立ち上がる。 彼は、研究素材から思わぬ反撃を受けた。 不意を打たれた彼は 自らの力を存分に振るうこともかなわず 大地の奥底へと封印される。 人々は、強大な悪魔が二度と世に復活せぬよう 封印した地に城を建てた。 ウィンダウッドの地に平和が訪れたかのように思えた。 だが、異変は少しずつ、世界を襲う。 最初に、付近の生物が、突然凶暴化した。 次に、植物が生気を失い、枯れていった。 最後に、凶暴化した甲虫が、巨大化した。 原因は、彼だった。 大地の奥底に封じられてなお、世界に影響をもたらす強大な魔力。 その力で、封印の地は迷宮へと姿を変えた。 彼の名はべレス。 かつては人間だった悪魔。 # by cursedbird2 | 2006-08-26 19:17
「どういうことか、説明してもらおうか?」
象牙の塔。 魔術師達の、研究施設。 その近くの、人目につかない場所で、話し合う影があった。 「貴様の弟子が我を襲ってきたぞ。よもや、貴様の差し金ではあるまいな。」 口調こそは穏やかだが、誰もが圧倒されそうな底暗い声で、片方は語る。 「ふん。悪魔である貴様が、何を恐れている。」 明らかな挑発の混ざった口調で、もう片方は応える。 「契約者にして、その態度。状況を読まず、一切へりくだりもしない。読めぬ奴よ。」 「褒め言葉として受け取るよ。」 双方、和やかに話してはいるが、共に、次の瞬間には必殺の一撃でも放ちそうな気配を持っていた。 「大方、貴様を襲った奴は貴様の魔力にでも目が眩んだのだろう。私の知るところではない。」 「ふん。ならいいがな。」 沈黙が流れる。 もしもこの場面に出くわした者が居れば、その迫力に動くことすらできなくなっただろう。 「・・・契約者の癖に、崇めもせん。畏れもせん。利用もせん。まったく、食えぬ奴よ。」 もうよい、と呟き、片方は移送方陣の展開を始める。 「裏切ることはまかりならん。それだけは、心に刻め。」 そう残し、影が一つ、その場から消え去った。 「利用なら、してるさ。」 呟き、笑う。 それは、悪魔よりも悪魔らしい、底冷えのする笑いだった。 その恐ろしい笑いがふと消え、男は空を見上げる。 「襲ったのは・・・、オリムだろうな。生きて居ればいいが。」 長年研究を教えてきた師として、長年研究を共にしてきた友として、その身を案じる。 「早まりやがって。命を、捨てるなよ・・・。」 男はゆっくりと塔に戻っていった。 # by cursedbird2 | 2006-08-12 08:32
くそっ!
思い出すだけでも忌々しい! 我が友を狂わせ 我が人生をも狂わせた あの悪魔め! くそっ! 私としたことが こんなに傷を負うなんて・・・。 グルーディンの漁師を説得し 東の孤島へと無理矢理渡らせてもらった。 孤島に到着した私を迎えたのは 魔物の大群。 死に損ない。巨大な蟲。炎の民。人狼。小鬼。 だが、それも予想の範囲内。 なぜならばここは、あの悪魔の本拠地なのだから。 私は魔法で軽く薙ぎ払い、悪魔の魔力を辿り洞窟へと足を踏み入れた。 そこもまた、死に損ない共の巣窟となっていたが やはりそれも、私の敵などではない。 そしてついに見つけた、私の怨敵とも呼べる悪魔の姿。 こいつを殺せば、私はまた塔に戻ることが出来る。 ハーディンに、カスパー、バルタザール、メルキオール。 そして、セマ。 皆とともに、また魔法の研究に集中する日々に戻ることが出来る。 だが、私は敗れてしまった。 悪魔の力は強大だった。 私の放つ、全力の魔法をことごとく撥ね退け そのまま、私は奴の振るう杖を、防御する暇もなく叩き込まれてしまった。 私は今、あの悪魔から必死で逃げている。 ・・・しかし妙だ。 なぜ、奴は追ってこない。 ・・・いや、いい。 これはチャンスだ。 私は残っていた魔力を振り絞り、転送の方陣を作り出す。 空間の狭間にもまた、魔物が存在するが 弱った私でも始末に終える相手だ。問題はない。 悪魔、バフォメットめ。 私を殺さなかったことを後悔するがいい。 研究し、いつか、いつかきっと。 貴様を殺しに舞い戻る。 # by cursedbird2 | 2006-08-06 17:24
「本当に大丈夫なのか?」
今、私の前には、数人の人間が居る。 皆、一様に心配そうな視線を私に向けてくる。 声をかけたのは、彼らのリーダーと思われる人物だ。 「ええ、ご心配なく。厄介なハイネと鏡の森を越える事が出来ました。後は、私一人でもどうにかなると思います。」 そうは言っても、やはり、心配そうな表情は薄れない。 なんとも、お人よしなことだ。 「この後はどうする気だ?良ければ、ここで我々に手を貸して欲しい。」 「残念ですが」 と、口では言うが、内心は、早く発ちたかった。 「塔」の追手は、もうとっくの昔に出発していることだろう。いつまでものんびりしているわけにはいかない。 「私には、成さねばならぬことがあります。それに・・・。」 見たところ、彼らの中にウィザードは居ない。だからこそ、必死に私に食い下がることだろう。 ならば、先手を打つ。 「私も今や追われる身。ここに居ては、迷惑をかけてしまいます。」 「そうか。」 思ったとおり、うまく開放されそうだ。 追われる者の心理として、見つかる可能性は極限まで下げたいものだ。 「道中、助かりました。なに、私もウィザードの端くれ。そう簡単に朽ちませんよ。」 そう言って作り笑いを残し、私はある呪文を詠唱した。 目の前に居た者達が驚嘆し、あたりを見回している。 「塔」での私の異名は「シャドウ・メイジ」。光を研究するもの。 この魔法は、その応用である。 完成後も、秘密にし続けた、私の最高傑作。 そう、彼らは私を探しているのだ。 私はこの魔法を「インビンジブル(隠密)」と呼ぶ。 私は自らの魔法の出来に感心しつつ、東へと出発した。 目指すは、あの悪魔が住むといわれる、ある孤島だ。 # by cursedbird2 | 2006-07-28 01:03
「カーツ様、どうでしたか?」
「我々の処分は、如何様に?」 カーツがブラックナイト隊の兵舎に戻ると、部下たちが一斉に集まってきた。 彼らの顔には、皆一様に、不安の色が浮かんでいた。 「・・・。」 カーツは、そんな部下たちの顔を見回し、口を開いた。 「安心しろ。カーツ隊は解散しない。私たちのこれからの任務は、近辺の森の哨戒だ。」 部下たちの反応は様々だった。 部隊の存続を喜ぶ者。戒め任務に不満の声を漏らす者。 刑罰の軽さを訝る者。悔しそうに歯を食いしばる者。 その全てに向かって、カーツは静かに声をかける。 「お前たち、たかが森の哨戒だからと、軽く見てはいないか?」 その一言に、部下たちは言葉を止めてカーツの次の言葉を待つ。 「森の中は、モンスターが潜むのにも、賊が潜むのにも、もってこいの場所だ。」 その一言に、部下たちがはっと顔を上げる。 「勤務場所が変わっただけで、俺たちはアデンを守っているんだ。それを忘れるな。」 # by cursedbird2 | 2006-07-27 12:59
「それで、みすみす逃がした、と。」
「はっ、申し訳ございません。全て、私の油断によるものです」 アデン城、謁見の間。 カーツはそこで、新王ケン・ラウヘルと、その補佐官、ケレニスに報告をしていた。 「どうなさいます?ケン・ラウヘル様。」 「そうだな・・・。」 ケン・ラウヘルは玉座に座ったまま、どうでもよさそうに呟いた。 「カーツ、およびブラックナイト、カーツ隊は、アデン近辺の森の警備を命ずる。」 それだけ言うと、ケン・ラウヘルは玉座を離れ、そのまま立ち去ろうとした。 逆に、驚いたのはカーツだった。 自分は、反逆者を取り逃したはずだ。 良くて隊長から降格、最悪ブラックナイトの解散すらイメージした。 なのに、近辺の森林警備だと・・・? 「あら、隊長さん、この寛大な措置に気に入らないことでもあるのかしら?」 そんなカーツの心を見透かしたかのように、ケレニスがタイミングよく声をかける。 「い、いえ・・・。命、謹んでお受けいたします」 混乱したまま、すでにケン・ラウヘルの居ない玉座へと、拝命の宣言をする。 「よろしい。下がってよろしくてよ?」 「はっ!」 カーツが去った後、ケレニスは謁見の間のすぐ横の通路で待っていたケン・ラウヘルの横に並ぶ。 「楽しそうですわね。」 「ふっ。」 ケレニスの声に、ケン・ラウヘルはかすかに口の端をゆがめるだけだった。 「反乱分子、グンダーにゲレド、か。お前の言っていた通りになったな。」 「当然ですわ。あの二人は、誰よりも前王に忠誠を誓っておりましたから。」 「見事な働き、というわけか。」 言って、ケン・ラウヘルは口の端のゆがみを大きくした。 「乱世が、来る。退屈などしない、血と火の踊る、乱世が、な。」 # by cursedbird2 | 2006-07-24 12:58
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